購入からの出来事

1991年春

以前から、セブンの事は気になっていた。私の好みは小さく低い事だ。そして凝り性の私にはうってつけの車だった。ただ、買ってしまうつもりはさらさら無かったのだが。

しかし、ある出来事のせいで人生観が変わってしまい、買う事を決意した。

まず、後悔の無い様に雑誌、書籍等から、セブンに関する満足のいく知識を得る事に約半年を費やした。するとタイミング良くBILSTEINを用いたニュータイプサスペンションの発表があった。自動車雑誌の各インプレッションも良好だ。

そして上京して葛飾ニューポートスポーツカーズの三沢氏に車のオーダー、輸入を依頼する。ショップは無く、副業として個人で輸入を請け負っておられるそうだ。UKのオークヒル・クラッシック・アンド・スポーツカーズと言うファクトリーに製作を依頼するとの事。そのファクトリーのビデオには大変綺麗なロータスエラン26R(レプリカ?)の仕上りの様子や、レストア中のエラン等が映っていた。ファクトリー自体は古き良きイギリスの外観を持つが、床はグリーンに塗られ、チリひとつ落ちていない感じで、とても合理的に整理された印象だった。

     ☆注文の仕様

  • ドディオンアクスル

  • フロントダブルウイッシュボーン

  • BILSTEINダンパー

  • ドライサンプ

  • クライムシェルフェンダー

  • L.S.D.

  • エンジンはFORD BDA (と言っても腰下はフォードのノーマルだった)

  • 16inch HPCホイール

  • フル塗装グリーン、イエローノーズのプリズナーカラー(昔のTV番組のモデルらしい)

  • 本革シート


1992年夏

車が来るまで半年程と聞いたが、実際は1年と少し待っただろうか。93年夏だった。

車は、受け取った時点からオーバーヒート気味だった。キャブ調整をしてみるが、走行中アクセル全閉でマフラーからパンパンと音が鳴る。確かプロジェクトイノオという名前のショップで観てもらったのだが、ガスケット抜けではないかとの事だった。パワー感も全くない。

何件か回ってみたショップには信頼を置く事が出来ず、お金がない事もあって、無謀にも自分でヘッドを剥ぐってみる事にした。経験はないが、4気筒だし、「カーボーイ」やその他の書籍を参考にすれば何とかなるだろうと思っていた。


英国車などデリケートな車を購入する場合

実は、車が到着するまで、催促やら何やらで購入した三沢さんとお電話で話して、アフターサービスのような物は期待しない事にしていた。しかし、これから買われる方がリスクを減らすには、
  • しっかりしたショップで購入
  • トラブルが起こった場合保証はあるのか
  • どの程度まで保証してもらえるか

をしっかり確認した上で購入する事が肝心だろう。イギリスの車は完璧ではない部分が多いので、(つまりよく壊れるという事)日本車ではクレーム扱いになっても、こういった車を販売する所では、そうならない事が多いように思われるからだ。実際に商売を考えた場合、クレームにきっちり対応するとなれば販売価格は高くなってしまう。逆に、壊れたら自己責任という場合は、販売価格は抑える事が出来る。価格も安く、良心的なショップを見つけられれば、それに越した事は無いのだが。


エンジン分解

いくら屋根が付いているとは言え、月極の駐車場での分解は問題が多かった。仕事が終わって9時ごろから作業を行うので、音には充分気を使っていたのだが、ある晩、隣の大豪邸に住むおっさんが怒鳴り込んできた。ちょうど車庫の隣の部屋で寝ているらしく工具を置く音が気になるのと、明るくて眠れないので11時には止めろと怒鳴られてしまった。

ガレージの大家さんには事前に了解は取っていたのだが、予想以上に床が汚れるので、会う度に小言を言われてしまう。

修理の方は、まずはヘッドを恐る恐るはぐってみる。BD系のヘッドはヘッド本体とカムキャリアの2階建てになっており、カムキャリアをはずすとバラバラとタペットとトップハットシムが落ちてくる。これは組み直すのには相当苦労するだろう。そしてヘッド本体をはずすと、ピストンのトップにはバルブが当った跡がしっかりと付いていた。それも見事に全バルブ。ピストンのリセスの位置が全く合っていないのだ。ガスケットを観察するがよく判らない。後に秘密のファクトリーで診断してもらった所、やはり抜けていたらしい。

こうなったら腰下もバラさなければならない。エンジンクレーンは未購入だったので、ミッションとブロックを切り離して持ち上げてみるが、とても1人ではエンジンルームから持ち上げられない。仕方ないので後日友人に手伝ってもらって何とか人力でブロックを降ろした。しかしエンジン搭載に備えてエンジンクレーン購入を決意。

Jクラフトに相談して、さんざん悩んだ末に、二度とエンジンに手を付けなくても済むように、高価なパーツを奢る事にした。

  • スチールフルカウンタークランク>82mmストローク
  • ビッグボアが可能なニューブロック
  • ショートピンハイトピストン
  • ロングコンロッド>キャリロ製
  • ビッグバルブ、ビッグポート化
  • ウルトラライトウエイトスチールフライホイール
  • ティルトンツインプレートシンタードクラッチ
  • 面研その他の加工

Jクラフトにヘッド等を送り、何度か催促はしたのだが、結局、出来上がって来るまでにまた半年近く掛かっただろうか。根気が必要だ〜。


1993年春、エンジン組上げ

さあ待ちに待った組上げ作業だ。方法は事前に時間は充分過ぎるほどあったので、手引き書などで充分確認した。ダイヤルゲージ、トルクレンチ、エンジンクレーン、中古の日立ベビコン(エアコンプレッサー)まで買ってしまった。作業場は崩壊寸前ボロ自宅の一室だ。

到着したパーツを整理して行く。ピストンなんてピッカピッカで、組みつけてしまうのが勿体無いぐらいだ。いかにも丈夫そうで回りそうなスチールクランクなどには思わず「頬ずり」したくなった。(^^)

組上げは順調に進み、問題のカムキャリアの組上げだ。Jクラフトの大橋社長には磁石を使うと言う事を教わった。まずカムキャリアにカムを通してしまう。そこへ裏からタペットを決められた順番どうりに組みつけ、タペットが落ちてしまわないようにカムの隙間から強力な磁石を一つずつ刺し込む。そーっとカムキャリアを持ち上げるとタペットは落ちないという訳だ。それぞれのクリアランスに調整されたトップハットシム(インナーシムの事)は、あらかじめ所定のバルブにグリースで固定しておく。ちょっとでも触ってしまうと落ちてしまうので細心の注意が必要だ。この一連の作業は本当に大変だった。このヘッドは昔F1で使われていたコスワースDFVとほぼ同じ構成らしいのだが、F1エンジンのリビルダーは毎回こんな煩わしい事をしていたのだろうか。もっともどんなエンジンでも、それなりの熟練は必要とされるので、職人になってしまえばたいした事は無いのだろう。(^^)


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